熊打ち名人

俺がこの年まで熊打ちをやってこれたのは熊に惚れていたからなんじゃ。   
最近の若けえもんは熊と見りあ鉄砲ぶっ放すだが、あんなことをしとりあーいずれ熊に食い殺されてしまうだで。
だから俺はこれと決めた年老いた熊しか狙わねえ。   
それも奴さんが「おい爺さん、もう打っていいぞ」って合図を送ってくれるのを待つんだ。    
待って待って痺れ切らすまで待つんだ。
当たり前だろう、相手だって命を賭けて直談判してんだ。   
そうやすやすと合図は送らねえよ。
それでも俺の仲間はこの合図を勘違いして随分死んじまっただ。
合図は後ろ向きには送らねえよ。
一応前向きに猛然と襲ってくるのが熊の習性だで、その時に怯んだらお陀仏さ。
至近距離まで来て両手を広げて心の臓を見せた時が、鉄砲さぶっ放す時よ。
その時に備えて俺はこの距離で100発100中の腕を磨いてきた。
何も鉄砲だからといって長え距離を狙う修行なんかしなくていいんだべ。
自分がやられる直前にさえ仕留めればすむことよ。
俺あ、熊が土に返っていく直前の最後の贈り物を頂いているだけよ。
そして贈り物を頂いた後は、懇ろにお弔いをしてあげるだよ。
それが熊にもわかるから、俺にやキチンと合図を送ってくれるだよ。
by 11miyamoto | 2006-11-06 10:50 | 雑感


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